Web会議時代の新しいルールとは ~Zoom革命 田原真人氏インタビュー~

働き方改革によって徐々に導入されていたWeb会議が、新型コロナウイルスの影響によるリモートワークの急増で一気に浸透しました。Web会議に使われるツールも様々あり、いくつかお試しになった方も多いでしょう。例えば「Zoom」は、会議だけでなく、学校の授業や友達同士のコミュニケーションにも活用され、「Zoom飲み会」というトレンドも誕生したほど注目されました。

そこで、Zoomを使った最新の活用ノウハウを通して、新時代の働き方やコミュニケーションのあり方を提供している「Zoom革命 」主宰の田原真人さんに、Web会議時代における新たなルールや考え方について聞いてみました。

田原 真人(たはら まさと)さんのプロフィール:マレーシアに移住し、完全オンラインで仕事をするようになって9年。国境を越えてオンラインで集まって活動するプロジェクト集合体、トオラス(旧・与贈工房)の代表を務める。管理をしない自律分散型のオンライン組織経営に取り組み、一方的に教えずにオンラインで学び合う参加型研修を提供する。国際ファシリテーターズ協会日本支部理事。『Zoomオンライン革命』など著書10冊。

Web会議だからこそ「相手の顔をはっきり見られる」

―Web会議と、直接会って話す対面の会議、大きく違うところはどこだとお考えですか?

田原さん:情報の取り方、でしょうか。チャンネルが違うといいますか。
対面重視の方は、直接会うことでその人の雰囲気や印象、信用できそうかどうかを自分は分かる、と思っているので、そういったオーラや空気感みたいな非言語的なものをチャンネルにしていることが多いです。そういう方は、Webではその情報が取れないから不十分に感じ、例えばWebのやりとりだけで契約に至ることに不安を感じてしまうんです。

一方で、私はWeb中心になって長く、Webでもバンバン契約が決まっていくのが日常なので、違うチャンネルで情報を取っているんだなと思っています。WebにはWebなりの情報の取り方、チャンネルがあるんです。

例えば、対面だとそこまで相手の顔をジロジロ見ることはありませんが、Web会議では視線を気にせず、対面よりも相手の顔をはっきりと見ながら話すことができますしね。

田原さんインタビュー風景

田原さん:それから、Zoomのように録画ができるWeb会議ツールだと、ミーティングをもう一度見返すことができます。
あの時言いたかったことはこういうことなんだな、と後から気づくこともありますし、チームのメンバーに共有する時もすごく楽です。リアルだとミーティングの空気感や状況を後からジョインする人に伝えるのは非常に難しいですけれども、録画を共有して見てもらって、次から入ってもらうことができるので、Webだとできることもたくさんあります。僕は今、対面よりもWebの方が楽だなと思っています。

Web会議は音声環境が大事! サブの通信環境もあると安心

―Web会議をまだ始めたばかりで、特有のルールがわからず心配だという人も多いです。Web会議が当たり前になった世の中で必要なルールのようなものを教えてください。
まず、Web会議で求められる環境や開始前にしておくべき設定などで、気をつけておいた方がよいことはありますか?

田原さん:Web会議は音声環境が大事なので、雑音が入るとストレスになりやすいですね。一番のポイントは、雑音が少ない場所に行けるかどうかでしょうか。
今、電話ボックスのような、駅にあるスピード写真みたいな「Web会議ボックス」も試験的に作られています。海外では結構ありますし、日本でもポツポツ見かけるようになっているようです。Web会議にカフェから入る人も多いですが、カフェだとうるさいので、防音のボックスに入って会議できる環境はこれから必要になってくるんじゃないかと思いますね。

あとは、マイクなどのデバイスをうまく使えているか。その確認が準備では大事だと思います。イヤホンも相手の声がよく聞こえるので僕は使っています。声の調子には相手の体調や緊張がよく表れるので。僕は聴覚優位で情報を取っているタイプなので、声がきちんと聞こえているほうが、コミュニケーションが深く取れます。

―背景についてはどうでしょうか。気にされる方も多いと思います。

田原さん:会社でWeb会議をする場合には、セキュリティ面で映ってしまったらマズイものもあると思うので注意が必要ですが、自宅であれば部屋は散らかっていてもバーチャル背景の壁紙設定を使えばよいと思います。
僕も、カンファレンスの時は仕事っぽい、オフィスっぽい背景を入れたり、逆に普段の会話は自然っぽい、浜辺の背景などを選んだり。背景を使い分けています。ただ、オンライン飲み会の時のふざけた画像のまま翌朝のWeb会議やカンファレンスに出てきてしまって慌てた......という失敗には注意ですね。たまに見かけます(笑)。

―Web会議中に通信が途切れて退出してしまうケースがありますが、通信環境について田原さんはどうされていますか。

田原さん:通信環境は、お父さんとお母さんが仕事で、子供も授業で、と家族全員がオンラインを使う場合は、同時に使うとどうしても通信が弱くなってしまいますので、時間をずらすなど、どう調整するかもポイントですね。私の場合はこういう仕事なので、家の光ファイバーとは別にモバイルWi-Fiを別に持って備えています。大事な会議やイベントの時に回線が落ちてしまうとダメージが大きいので。2回線+スマホの3G回線など、突然悪くなった場合に備えておくとよいでしょう。

―予備の通信環境がなく、もしWeb会議中に急に声が聞こえなくなった時はどうしたらよいでしょうか?

田原さん:応急処置的な対応としては、ビデオをオフにして通信のデータ量を減らすことでしょうか。
画面が固まってしまうなど何か操作がおかしい時は、退出してまた入り直すこともありますが、通信が弱い時はビデオをオフにしてみることを提案しています。

Web会議以外のプラットフォームも上手に併用

―理想的なWeb会議の進め方について、気をつけるべきポイントを教えてください。

田原さん:まずは、ファシリテーターが何のための会議なのかを確認すること。
今日絶対に終わらせなければいけないのか、積み残しても大丈夫なものなのか。目的と、今日必ずやらなくてはいけないことを共有してから進めています。議事録は、取ることをもあるし、録画を残しておくからよしとすることもあり、内容によってどちらか選択しています。

それから、Zoomのブレイクアウトセッション(小部屋に分けるツール)を活用すること。
8人ぐらいの会議でも、ちょっとブレストする時は「小グループで10分話そう」といったん2〜3人のグループに分けて観点出しをし、各グループで出た観点をGoogleドキュメントに書き込むようにしています。
そうすると、それぞれのグループに分かれて話し合っていても観点出しは共有でき、それをどうするか検討し合うためにまた全体で集まることができます。分けたり、集めたり。機動力を持って会議を進められるのはWebならでは、です。

また、一人の人が話しすぎてしまい会議が停滞......といった際にも、ファシリテーターがいったん区切りを入れて介入するか、ブレイクアウトセッションを使うことで場の流れを変えるか、そういうやり方がリアルよりもやりやすい。会議室の中で3人ずつに分かれてみましょうとかやらないでしょう(笑)。リアルでは難しいこともWebでは簡単です。

あとは、会議と会議の間をどうつなげるか。
これはリアルでも同じですが、リアルよりも直接会わないWeb会議では特に、Microsoft TeamsやSlackなどのビジネスチャットツールを活用することが大事です。会議の前にアジェンタなどが共有されていて、テーマ出しも終わっていて、会議では話し合いから始めることができる、というのが理想です。

一緒に集まって話さなきゃできないことをWeb会議で、そうじゃないことはチャットベースでやる。その両方をやると効果的に話し合いが進んでいくので、これからの時代はそこのデザインがすごく重要になってくると思います。

田原さんインタビュー風景

Web会議の浸透で、会議自体の考え方が変化していく

―Web会議は移動時間も交通費もカットできて便利だな、ぐらいのイメージしか最初はなかったのですが、これからは「会議」というものの考え方が変わっていくかもしれませんね。

田原さん:今までは「会議」が話し合う場所であり、普段は何にもしていない、そんな状況だったかもしれません。「会議」を単体で捉え、その生産性を考えてしまいがちでしたが、会議だけ独立して考えるのではなく、全体のコミュニケーション設計の中の一部として「会議」が組み込まれてくるという考え方が、情報化の、日常的につながり続けるコミュニケーションをしていくという世界観の中では重要です。そこに至るよう、いかに視座を転換して、会議を再定義していくか。

これからは、チャットツールで色々なことが話され、それを集約して何か固める時に会議をするようになるでしょう。チャットツールなどでのテキストのコミュニケーションと、集まって話す内容とがリンクする----テキストベースのコミュニケーションをしながら、必要に応じて集まって、また普段のテキストのコミュニケーションを続けていく......その中で、普段のコミュニケーションがいかにクリエイティブで価値を生み出すのか、全体設計に価値を見出していくのがこれからは大事だなと思っています。

録画が共有できたり、Googleドキュメントで議事録が簡単にWeb上で共有できたり、ということがコミュニケーションフローの中にあり、そこに参加できなかった人も時間差で入ってこられる、そういう時代になってくるでしょう。「会議」の捉え方も、Webかリアルかといった、これまでの延長線上ではなく、情報化社会において会議の新しい価値とは、というのを置き直すことが大事だなと思っています。

―最後に、今後リモートワークは増えていくと思います。変革するWeb会議時代のコミュニケーションにおいて、何かアドバイスはありますか?

田原さん:リモートワークになるとコミュニケーションが会議だけになってしまいがちです。
会社でしていた何気ないおしゃべりの部分がなくなると関係性が細ってしまい、対立やすれ違いが生まれやすくなります。僕らは完全リモートの組織を4年やって、おしゃべりの時間がないことで組織が危機的な状況になっていくのを体感しているので、「会議はここまでだけど、この後30分ぐらいダラダラおしゃべりしようか」と、あえて放課後みたいなおしゃべりの時間を意識して作るか、ミーティングの中に体調や感情の話などを話す時間を入れるか、ミーティング自体をおしゃべり的な時間にするか、など工夫しています。

コミュニケーションは、目に見えている部分は氷山の上の部分で、それを支える水面下の部分が、オンラインだと気づくと細っているんです。その下の部分が普段から育つように、おしゃべり的なコミュニケーションを取り入れていくといいと思いますよ。

これから求められるWeb会議のルールとは

リモートワークやWeb会議台頭の時代、これからは働き方やビジネスコミュニケーションの形も変わってきそうです。今回、田原さんにお話いただいた「これから求められるWeb会議のルール」をまとめてみました。下記のポイントを押さえ、情報化社会の新たなビジネスコミュニケーションのスキルを身につけていきましょう。

ルールその1:
「対面でないと契約は無理」ではなく、Web会議ならではの情報の取り方を意識する

ルールその2:
会議の目的に合わせて背景を選ぶ! 変更忘れには注意

ルールその3:
通信環境は悪くなること前提! サブの通信機器を準備する

ルールその4:
会議でやるべきこと、事前にやっておくべきことは明確に分けておく

ルールその5:
チャットツールやGoogleドキュメントなど、他のデジタルツールも併用する

ルールその6:
会議とは別に何気ないおしゃべりの時間を持つ


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田原真人さんの著作
Zoomオンライン革命!」(秀和システム)

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