産業カウンセラーが語る! リモートワーク時のストレスと対処法

他の社員と共にオフィスで働くのが当たり前だった働き方が一変し、働く場所が自由なリモートワークが急速に浸透してきています。
通勤がなくなるなどメリットも多い中、慣れないリモートワークで何らかのストレスを感じている方もいらっしゃるかもしれません。企業にとっても、社員のメンタルヘルスが今後どう保てるかは気になるところでしょう。リモートワーク下では、ストレス対策のあり方もまた変わってくるかもしれません。
そこで今回は、産業カウンセラーの秋山幸子さんに、リモートワーク時にはどのようなストレスが発生しやすいのか、どう対処すれば良いのかなどをお聞きしました。

秋山幸子さんのプロフィール:フリーランスのカウンセラーとして、従来にはない「組織力強化のためのメンタルヘルス支援」を呼びかけ、外部から組織管理をバックアップしてきた。2012年には、株式会社総合心理研究所を創立。「メンタル経営」をキーワードに、企業の人事労務や人材育成から各種ハラスメント問題、シビアなケースへの対応まで、経験豊富なカウンセラーによる丁寧なサポートを行う。

体調悪化やストレス......リモートワークで発生した相談の中身とは

―リモートワーク時のストレスについて、秋山さんは企業から実際に相談を受けたことがありますか?

秋山さん:はい。コロナ騒動の中で突然、働き方改革の課題でもあったテレワーク、リモートワークが一気に加速しました。メディアでもたくさん取り上げられていますが、オフィスに通う通勤時間の短縮や、そのストレスが軽減された方もおられる一方、会社からの締め付けが強くなった気がするという相談もあります。
弊社(株式会社総合心理研究所)では、コロナストレスが始まると思われた今年3月1日から5月31日まで、無料の電話メール相談に応じてきました。中でも、
「リモートワークになってから体調を崩した」
「リモートワークになってから、上司への報告メールが増え、ストレスを感じている」
「家族と仕事のバランスは、オフィスワークの時よりも取りにくいと思う」
という相談が印象的でしたね。

「リモートワークになってから体調を崩した」ケース

―それぞれどんな相談だったのか教えていただけますか?

秋山さん:まず、自己管理がうまくできず体調を崩してしまうというケースがあります。普段から自己管理能力の高い人には問題が起きにくいのでしょうが、一日のスケジューリングが苦手な人、はっきりと形に残りにくいことについての目標設定を立てられない人は、リモートワークには向いていないこともあるでしょう。
自宅にいることで体調管理を怠りがちになるということは、ビジネス上あってはならないことです。この機会に自身の仕事スタイル全般を見直す必要があります。

「上司への報告メールが増え、ストレスを感じている」ケース

秋山さん:次は、上司と部下の関係についてです。上司のほうがリモートワークのスタイルに不慣れなことが多くて、つい、何度も何度も同じことを連絡してしまう、執拗に確認を行ってしまうという問題が起きています。
それを受けて、リモートワークでハラスメントされたと感じる人もおられます。慌ててリモートワークの導入を迫られて、業務内容の見直しや、肝心なことの確認が職場内で共有できていないままになってしまったという職場もあります。普段からのコミュニケーション能力、メールでのコミュニケーション能力のスキルが低い人ほど、ストレスの要因となりやすいようです。

「家族と仕事のバランスが、オフィスワークの時よりも取りにくい」ケース

秋山さん:自宅で終日すべてが完結するという仕事スタイルでは、ワークライフバランスへの認識がなされていない場合、常に仕事に追われているか、仕事をさぼってだらだらと過ごしてしまうかという極端な方向にも走ってしまいがちです。
仕事というのは、どこにいても、いついかなる時でも、個々の生産性の向上を考慮しながら、マネジメントがしっかりと取られていなければならないものです。ワークライフバランスが取れることは、心身の健康にも留意することができていると言っても過言ではありません。モチベーションクライシスも防ぐことができますし、明日への活力を増すこともできます。日本人の働き方改革は、このコロナ禍の中において、根幹から見直す機会にもなったのではないでしょうか。

メンタルヘルスの観点で、特に意識したい行動や用意したい環境とは

―そのような問題が発生しやすい中、リモートワークをする方が特に意識して行った方がいい行動や、準備のようなものはありますか?

秋山さん:リモートワークに従事する際には、自分自身の管理能力が重要課題となります。管理能力に自信がないという方は、仕事をする環境づくりをまずは行ってみましょう。そして自身を管理するための最低限の心構えが必要になってきます。
以下にチェックを入れてみてください。できていない項目は、ぜひ実践してみましょう。

リモートワークを始めてから、できていることにチェック!

□一日、一週間の予定表を作成しながら、業務を進めている
□無駄な時間、効率のよくない時間があったとしても、1時間以内に留めている
□仕事のできる居場所が確保されている
□デスクと寝床は別室である、または距離が取れている
□自分の体型や作業内容に合ったデスク・チェアが用意されているなど、集中力が続きやすい環境が作られている
□気分転換の時間を定期的に確保している
□心身の不調に気づいた時、相談できる人が必ずいる
□能率が上がらない時には、思い切って仕事を打ち切ることができる
□IT機器の利用時間が長いので、気分転換(運動・散歩など)を行う時間を持つことを心がけている
□昼食、夕食、休憩時間の確保は時間を決めて行っている
□長時間の在宅によるストレス解消法を3つ以上持っている
※あれば、書き出してみましょう。
(            )(            )(            )
□アルコールは、業務時間と決めている間は絶対に飲まないようにしている
□コロナ対策をしつつ、適度な運動、散歩、野外活動の時間は確保できている

※当チェックリストは株式会社総合心理研究所が著作権を所有しています

もしも上記の項目で、自身を振り返り気づいたことがあれば、今この時から意識していく、もしくは、今後のリモートワーク時の参考にしてください。

社員のメンタルヘルス不調に気付く方法は?

―管理する側、経営者、管理職にとっては、部下である社員のメンタルも気になると思います。社員のメンタルが弱っていると考えられるサインのようなものはありますでしょうか。

秋山さん:メンタルが弱ってきたのではないかと思われるサインには、早めに気づくのも管理者の仕事です。特にリモートワーク時には、普段よりもコミュニケーションがとりにくいなど環境上の理由が重なり、SOSに気が付きにくいものです。
こちらもリストでご案内しましょう。もしかして......が疑われるパターンです。

□メールの返信などが遅れがちになってきた(報連相ができないこともある)
□携帯電話をかけても、すぐに出ないことが増えてきた(上司と話したがらない)
□以前よりも顔色が悪そう(時々は、テレビ電話などで相手の調子を確認しましょう)
□覇気が感じられない(やる気、元気は声でもわかるものです)
□明らかにイライラしている感じがする(ビジネス用語を使うのも億劫になることがあります)
□生活が不規則になっているようだ(特に食事と睡眠時間がルーズにならないように指導)
□ささいなミスが目立つようになった(普段のその人からは考えられないミスをすることもあります)

※当チェックリストは株式会社総合心理研究所が著作権を所有しています

―これらに該当してメンタルヘルス不調が疑われる社員には、どのようなサポートが有効でしょうか?

秋山さん:リモートワークを導入する会社では、家族とのコミュニケーションも併せて強化したほうが良いとおすすめしています。
企業側に家族からのオンライン相談窓口を設置するのも良し、社員とのオンライン定期面談時には、家族にも参加していただくのも良し、可能な限り、顔を突き合わせてみることです。
メンタルが弱っていることを見抜く力は、専門家でも時に難しいことがあります。会社が社員を見守ることやサポートすることは重要ですが、会社が見守ることのできにくい時間帯もあります。そうした時に、会社が頼りになる存在は「社員の家族」でもあるのです。
社会は次第にリモートワーク時代になりますので、この機会に会社のメンタルヘルスサポートの在り方についても、考え直された方が良いでしょう。

今までのように、十分に社員対応に目が行き届かない......といわれる労務担当者さんのご相談もありました。時代に応じて、社員サポートの在り方も見直していかなくてはいけないのですが、現時点では、なかなかそこまで考えが浮かばない企業も多いことでしょう。

リモートワークがメンタル面でプラスになるはずの人も多い

―これまで見ていたのとは反対に、リモートワークがメンタルにとってプラスになるケースはどうでしょうか。

秋山さん:リモートワークに向いている人、メンタル面にプラスになる人も、実はかなりおられると思います。
特に、経営者層や管理職者層の方は、オフィス勤務スタイルでは成り立たない業務も多いはずです。社外とのやりとりや、自分のスキルアップ、ワークライフバランスで最大に成果を出すことなどは、オフィス内で完結することではありません。むしろ、個々の特性、個性や能力を最大限に発揮できる「資質」が求められるポジションですから、今後はさらに柔軟な働き方や、そこから生まれるアイディア、ビジョンに至っては、マイナス面をあげるよりも、プラスになることが多くなるはずです。
また、リーダー層の働き方が変わることによって、触発される社員が多ければ多いほど、組織に新たな活力を生み出すことも可能になります。
非常事態、異常事態、逆境の中でも耐え抜く精神力は、今のような騒動の中では大きく鍛えられることもあります。ただ、我慢するだけの精神でも事態は改善されませんし、ただ待つだけでもビジネスが沈没してしまうこともあるでしょう。
多角的に考えると、「メンタルが鍛えられること」「より問題解決型の人材が求められたこと」この2つは外せないリモートワーク利点とも言えるでしょう。
昭和時代・平成時代に生まれた「指示待ち族」などという人材は、むしろリモートワーク型には向かない社会が、奇しくも到来してしまった感さえあります。
常にスキルアップする精神力(メンタル)も、忘れてはいけないポイントだと思いますよ。

―メンタル面から見て、快活CLUBのような自宅外のシェアリングスペースを利用する利点はどこにあるとお考えになりますか。

秋山さん:在宅のスタイルを続けていると、どうしてもマンネリ化してしまうこともあるでしょう。また、一つの場所に居続けるとメリハリがなくなってしまい、モチベーションが下がってしまうこともあります。
そんな時に、自宅外で「仕事がはかどる居場所」として最適な場所を持っているのは、生産性向上のための武器になるかもしれません。
ただし、セキュリティ面や安全性も含めて最適な場所を探すのは容易なことではありません。自宅外のシェアリングスペースは今後も活用度は広がると思われますが、勤務先の意向や許可が得られるかどうかも、しっかりと確認しながら、ベストなタイミングを見つけてみるといいですね。

リモートワークでも安心して働ける社会づくりは「必須の課題」

―最後に、企業や社員がリモートワークにどのように向き合っていくべきかなど、産業カウンセラーとしてご意見ございましたらお願いします。

秋山さん:どんな時代でも、思いがけない「こと」が起きるものです。今回のコロナ騒動の中で、どのような「こと」にも向き合うしかないということが、骨身にこたえた方は多いと思います。
リモートワークというと、「うちでは ちょっと......」とためらわれている方もおられますし、「社会が変わっても、職場は人と人が顔を突き合わせていなければ、コミュニケーションが取れているとはいえない」と否定される方もおられます。
しかし、リモートワークを余儀なくされた私たちは、すでにリモートワークという新しい働き方の変革期にいるわけです。大規模な変革期において、ただ受け入れられない、受け入れにくいだけでは済まされません。
リモートワークにいつでも切り替えられるし、リモートワークで働く社員も安心して働ける社会づくりは、現代人の「必須の課題」なのです。
多様性が求められる社会の中で、いずれは「オリジナリティのあるリモートワーク」がそれぞれの企業や働く人に定着していくこと、それを推進していくことも企業の差別化につながることでしょう。

―本日はありがとうございました。

「株式会社総合心理研究所 オフィス秋山」のホームページはこちらから

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